どうなる!ハワイ不動産を利用した節税スキーム 税制改正大綱を、内藤克先生が解説

どうなる!ハワイ不動産を利用した節税スキーム 税制改正大綱を、内藤克先生が解説

更新日 2019.12.13

去る11月6日、ハワイのプリンスホテルにて、ハワイ相続プロジェクト・税理士法人アーク&パートナーズの代表税理士、内藤 克先生によるセミナーが行われた。テーマは”ハワイ不動産とこれからの相続”。当日は120名以上の、不動産関連、金融関連のセミナー参加者が集まる大盛況のセミナーとなった。ちょうどその頃、お集まりのプロフェッショナルたちの間で、いよいよか?と噂になっていたのが、海外不動産節税スキームに影響を与える税制の改正だ。
 

ついに、12月に入り、自民党の税制調査会が公表した「税制改正大綱」でその全貌が明らかになった。(この大綱のまま、改正されるとして)ハワイ不動産を所有している方たちにどのような影響があるのだろう。

内藤先生は、現在、海外不動産を持っている方に対し、下記のメッセージを送っている。

今回の改正では、当初予想されていた今後の取得物件に対しての適用ではなく、結果的にはもっと広い範囲の増税で”現在の海外不動産の保有者”にも影響を及ぼす改正となりました。

どなたも、購入時に描いていたスキームを見直すべきタイミングと思います。早めに状況を判断し、アクションを起こすことが大切です。 ご自身の所有する不動産に関して、不動産業者や税理士などへのご相談をおすすめします。出口戦略を練り直し、所有を続けるべきかどうか、個人から法人へ所有形態を移すべきか?など、臨戦的な対応力が問われます。



実際にこの「税制改正大綱」が与える影響とは?を内藤先生に解説いただいた。

 

結局、海外不動産税制はどう改正されるのか?

そもそも、会計検査院は、昭和26年から見直しされていない中古資産の耐用年数の簡便法(耐用年数を経過した古い建物については耐用年数の20%の年数で償却してよいという制度)を海外資産に対して適用するのは合理的でないという点を指摘していた。各国の不動産は気候や構造の違いにより滅失までの期間が大きく異なり、その国においては価値が残っているものに対して、日本の税法をそのまま適応することはおかしい、という観点であった。

さらに、減価償却で節税を図った場合、短い耐用年数で償却したあとは減価償却の計上ができなくなるため納税に転じるはずなのにいわゆる売り逃げにより低い税率(分離課税)の課税で「永久節税(繰り延べでなく税率差を利用した節税)」できることの問題点も指摘していた。 これらをまともに改正すると、車両や機械も含む耐用年数(簡便法ふくむ)を見直すだけでなく、分離課税制度の見直しにも着手しなければならなくなり、税法の根幹を揺るがす大議論となりかねなかった。さらに消費税の軽減税率の問題もあり、改正時期が今回のタイミングまで持ち越されたのあろうと思われる。

具体的な改正内容

・適用は2021年分の所得税(2022年3月15日が提出期限の確定申告)からとなる。よって、来年1年間は損益通算できる

・国外不動産所得の損失がある場合に損失のうち償却費に相当する金額はなかったものとみなす。 つまり赤字のうち減価償却相当額認められないという扱い。ただし、ほとんどの場合赤字が切り捨てられると考えてよい。

・簡便法でなく、残存使用期間を合理的に見積り、かつ一定の書類(所在地国の耐用年数がわかる書類や使用可能期間の年数が適切であるという書類)がある場合はその耐用年数はたとえ短くてもOKとされているが、実務的にどう見積もるのかについては今のところ不明である。

・海外にある中古建物の貸付による損失はほかの国外不動産から生じる所得とは通算できる、とされている。とされているが節税目的でこのスタイルの投資家はほとんどいないと思われる。  

今回の改正は、”不動産所得”に関しての取り扱いであって”事業所得”に関してはふれていないので、今まで通り簡便法も適用できる。一部バケーションレンタルを事業所得として申告している投資家もいるがその場合、事業所得と雑所得の所得区分の問題は残る。

・譲渡所得の計算上はなかったものとみなされた減価償却費は取得費から控除しない。本来、損益通算はできなくても減価償却は進むため売却したときの譲渡原価(必要経費)がどんどん下がりキャピタルゲインが増加するのだが、切り捨てられた減価償却費についてはキャピタルゲイン課税の対象としない、つまり切り捨てられた減価償却費は譲渡時に必要経費としてよみがえることになる。

ハワイ不動産所有者への影響は?

当初は「海外中古不動産については簡便法の適用ができなくなる」という改正が予想されていた。これであれば改正後の取得資産から適用されるため、現在の所有者には影響がなく、逆に駆け込み需要も見込まれたのだが、結果的にはもっと広い範囲の増税で現在の保有者にも影響を及ぼすものとなった。現在のスキームは不動産の貸付による損失(多額の減価償却が要因)と給与所得を相殺して所得を圧縮するという「損益通算」を利用するものだが、これを認めなくするという改正となったため、「改正日以降に購入した物件から適用」ということではなく、「改正日以降の申告から適用」となり現在の所有者にも適用されることとなる。


このスキームを活用していた投資家には大きく分けて「会社の経営者」と「高額の給与所得者」がいる。「会社の経営者」に関しては今回の改正はあくまで所得税の損益通算の問題であり、会社が保有する中古海外不動産には影響がないため、法人の活用(法人に譲渡して法人税の節税に切り替え受け取る役員報酬を減額しで所得税を抑えるなど)を考えるべきである。ただし法人へ譲渡する場合の譲渡価額や現地での課税(ハワイであればFARPTAやHARPTAの免除申請)や外国税額控除の適用により余計な税金が発生しないような工夫が必要となる。

内藤先生へのご相談は、こちらのリンクからお問合せを。


【プロフィール】 内藤 克  税理士法人アーク&パートナーズ 代表・税理士

日本とハワイの税理士、会計士ネットワーク『ハワイ相続プロジェクト』代表 1962年生まれ、新潟県出身。1985年中央大学商学部卒業(経営分析論)、1990年税理士登録。1995年税理士事務所開業、2010年税理士法人アーク&パートナーズ設立、現在司法書士、社会保険労務士、弁護士などの専門家と同族会社の事業承継中心にコンサルティングを行う。東京税理士会京橋支部、登録政治資金監査人(総務省)、経営革新等支援機関(中小企業庁)。 日経新聞デジタル版に相続コラムを執筆中。 著書に『会社の節税するならこの一冊』(自由国民社)。 『残念な相続』 (日経プレミアシリーズ)など多数。
 


 

内藤先生の新刊『残念な相続 マンガ版』も好評発売中。


 

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