「ネット投票を実現しよう」という声が、2021年の衆議院選挙前後から大きくなっている。とくに、その実現を切実にもとめているのが海外在住の日本人有権者だ。
在外ネット投票の早期先行導入を求めます! (Change.org)
2021年10月の衆院選では、公示から投票開票まで17日と戦後最短だったこともあり、海外在住の日本人の中には、郵便投票用の投票用紙が日本から期日までに届かないなどの事態が世界各地で起きた。これを期に制度を改善し「選挙権」という国民の権利を実行できるようにしていこうという超党派的な動きと署名活動につながった。NHKなど日本の主要メディアでも取り上げられるなど注目されている。
海外在住の日本人数は世界で約130万人、そのうち約100万人が選挙権を持っているが投票率は2%だという。なぜなら、海外在住者が投票するためのプロセスが煩雑かつ時間も費用もかかるためだ。投票したくても、そのためのハードルが非常に高い。
また、デジタル化・効率化が求められる現代の日本で、ネット投票の導入メリットは決して海外在住日本人のためだけでなく、日本に住む日本人にとっても大きいだろう。
在外選挙を取り巻く現状と、ネット投票の可能性について探ってみた。
【在外選挙人登録を行うには】
まず在外選挙の流れについて説明する。
最初のステップは「在外選挙人登録」を行うこと。本人が在外公館へ直接出向いて、選挙人登録の申請用紙を提出する必要があり、オンライン申請はできない。(日本で転出届を出す際に在外選挙人登録を行うことも可)
下記の外務省の関連ページの図解に詳しいが、紙の申請書を提出後、在外公館→日本の外務省→日本の市区町村の選管→そしてそれがまた同じルートで6ヶ所もリレーされて戻ってくる。在外選挙人証は紙のカードで、投票するたびに裏に履歴のハンコが押される仕組み。
在外選挙人証を受け取るまで通常申請から3ヶ月程度、コロナの影響で現在はそれ以上かかっている国も多いそうだ。
【在外選挙投票を行うには】
在外選挙人証のカードを受け取ったのち、「在外公館投票」「郵便投票」のいずれかの方法で投票する。(国政選挙のみ)
「在外公館投票」
在外公館に設置された投票所にて投票。 この投票用紙は立会人のもと封印され、日本の各選管に郵送されて、開票される。「郵便投票」
また在外公館が近くにない場合などのために郵便投票の仕組みがあるが、これも個人の費用負担を伴う「海外郵便1.5往復のやりとり」を経てようやく投票に至る煩雑なものとなっている。
まず、日本に投票用紙の請求用紙を送る(在外選挙人証の実物を申請書と一緒に送る必要がある、送料は個人負担)→投票用紙と在外選挙人証が返送されてくる→日本に投票用紙をふたたび送る。
「海外在住日本人にとっての投票」が、物理的にも費用的にも非常にハードルが高いということの一端が、いままで投票したことのない海外在住者の方にも感じていただけるのではないだろうか? 選挙があると知ってから、即思い立っても投票するわけには行かないのだ。
冒頭に紹介したネット投票が導入が待たれるところだが、現在のルールを踏まえ、2022年の国政選挙のためにも選挙人登録の申請はしておくことをおすすめする。
2021年10月の衆議院選挙の際に起きたこと
「ハワイに住む」編集部はホノルルにあり、2021年10月の衆院選では筆者も車で20分ほどの在ホノルル日本領事館の投票所にて投票を行った。投票は多数のスタッフの方の立ち会いと確認の元、スムーズに行うことができた。しかしその後のいろいろな報道やネットのコメントなどで、いかにホノルル在住の我々が恵まれていたかということを思い知ることになった。
ネット投票に向けての署名活動サイトから在外投票トラブルを引用する。
在外投票トラブル一例:
- 在外公館投票が近くにないため、飛行機代6万円かけて1日かけていった。(アメリカ在住)
- オーストラリアから選管まで国際エクスプレスで投票用紙請求かけたが、3週間もかかったので郵便投票が間に合わなかった(オーストラリア在住)
- 9月上旬に郵送した郵便投票の投票用紙請求がまだ選管に届いていない(紛失か?)。在外選挙人証も同封しているので、在外公館投票への切り替えもできなかった(フランス在住)
- コロナ禍のため郵便投票で準備していたが、郵便事情が悪く投票に間に合わないと判明。諦めて往復約8時間、交通費と宿泊費約26,000円かけて在外公館投票へ行った(イタリア在住)
- 在外公館は遠くて行けず、ブラジルと日本間の郵便が止まっているので郵便投票もできない(ブラジル在住)
投票という基本的な権利を行使するだけで、個人負担が何万円もかかる、また投票したものが期日内に間に合うかが分からないなど、制度設計として厳しいものがある。
また、ネット投票は日本国内でも必要論が高まっていくはずだ。投票所に出向くことが難しい環境(お年寄りや子育て・介護中の方、悪天候やコロナのような災害時など)でも投票制度を提供することが可能になり、広い世代の投票を促す意味でも重要性が高いからだ。
実際に、2018年に総務省はネット投票に向けて実証実験を行い、セキュリティ面を含めて実施可能という結論が出ているという。
また、誤解している人が多いことなのだが、アメリカ国籍を取得しない限り、アメリカ永住権や就労ビザも持っているだけでは、アメリカでの選挙権は与えられない。どれだけ長く住み、納税していてもだ。
日本も含め、外国籍の人に国政選挙への参政権を与えている国はほとんどない。
海外在住日本人にとっての厳しい環境
この年末、多くの在外邦人が予定していた帰国・里帰りの予定をキャンセルした。
2021年の12月、日本政府が水際対策を強化した際、全世界を対象とする外国人入国禁止措置を取るとともに、日本人の帰国者に対しても新規航空券の販売中止を航空会社に呼びかけた。在外邦人からも「自国民の帰国を受け入れない政府があるのか」という反発の声を受け、即刻取り下げたことは記憶に新しい。
海外在住日本人の中には、自発的に移住した人だけでなく、政府・公的機関・会社の辞令で海外に住む人、その帯同家族、日本と在住国の両方に仕事がある人、長期出張の人などさまざまな背景の人がいる。また帰国理由も同様で、家族の介護やケア、仕事、物理的に日本に行かねば進まない手続きなどそれぞれの人に背景がある。
「好きで日本を出ていった人たち」「海外に滞在している人は危ない」という画一的な見方ではなく、色々な立場の在外邦人に配慮し、科学的見地からみて合理性のある水際対策を日本政府には期待したい。
こういった希望を伝えるためにも、もっとも基本的な在住日本人の権利が「参政権」なのだ。
冒頭にも書いた通り、在外邦人100万人の有権者は日本国内でいけば政令指定都市一つ分にあたるパワフルな票数を持っている。また、海外に出ているからこそ日本に対して感じる思いが強いひとも多いだろう。
国政選挙への参加は自分の意見を表明するための手段の一つである。また日本国内在住また海外在住を問わず、国民に広く開かれた政治のためにも、「ネット投票」は避けて通れない道だと思うのだが、みなさんいかがお考えだろうか⁉
この署名運動にご興味を持たれた方はぜひ「在外ネット投票の早期先行導入を求めます!」