今日はアドビス法律事務所のマロッツ (古屋) 有沙弁護士に、日米のクロスボーダーのエステートプランニング、とくにアメリカ資産に関する「リビングトラスト(生前信託)」をテーマに前後編でインタビュー記事をお届けする。
アドビス法律事務所のマロッツ (古屋) 有沙弁護士は、
この記事ではリビングトラストを作る前に事前に知っておきたい「トラスト受託者の主な仕事内容」という、あまり語られていないテーマについて詳しくお話を伺った。
前編となる記事はこちらから
マロッツ弁護士:
遺言とは異なり、リビングトラストはトラスト設定者(委託者)の相続に関する希望を明文化するだけでなく、設定者が自身でトラスト管理をできなくなった際に、後任受託者にトラストの資産管理を任せられるというメリットもあります。後任受託者は設定者が生きている間、設定者の日常生活のために資産を運用し、設定者が亡くなった後は、トラストの内容に沿ってトラスト資産の分配を完結します。
近年、米国資産の相続対策としてトラストの必要性が大きく謳われるようになりましたが、受託者の実務についてはあまり知られていないのが事実です。 トラストを受け継ぐ後任受託者はやるべき実務が多いので、設定者は誰に受託者の役割を託すかについて、事前にしっかりと考えるべきです。
リビングトラストを作る前に知っておいたほうがよいことなどを含め、マロッツ弁護士にじっくり解説していただいた。
リビングトラスト(生前信託)のメリットと仕組み
リビングトラストに資産を移すメリットは「プロベート」の回避
アメリカでは個人が亡くなった際、遺産の分配を行うために裁判所の管理下で煩雑かつ時間のかかる「プロべート(検認裁判)」という手続きを行う必要があります。このプロベートを回避する手法の一つがトラストです。個人の資産を生前にトラストに移しておくことで、健康上の理由などで資産管理ができなくなってしまった場合や死後、成年後見人選任手続きやプロベートを経ずに指名しておいた後任受託者が管理することができます。
【生前】
生前のリビングトラストは、自分自身がトラスト設定者(Settlor)及び受託者となり、自分が所有する資産や財産をトラストに移し、管理・運用できます。設定者はトラストにおいて自分自身も受益者(Beneficiary)として含めることができるので、元気なうちはトラストに入れた自分の資産を管理し、自由に使うことが可能です。設定者は存命中にトラストを解消したり、内容を変更することもできます。
【無能力になってから】
無能力状態とは、設定者が病気や事故などで意思決定能力を喪失した場合を指します。その際、トラストに指定した後任受託者(Successor Trustee)が設定者の代わりに財産管理・運用を行います。
【死後】
前述のように、設定者の死亡後、トラストに指定された後任受託者や代理人が財産管理を引き継ぎ、プロベートを経ずに、指定された受益者に対して財産を分配することができます。以上が、リビングトラストの基本的な仕組みになります。リビングトラストは、生前から死後までのご自身の資産管理についての意思を、元気なうちに明記しておくことができるので、人生の様々な場面に役立つ便利なツールであるといえます。ただし資産の内容によっては、トラストを作る以外にもプロベートを回避する方法は他にもありますので、ベストな方法を弁護士にご相談されるべきと思います。
「リビングトラスト」の受託者の仕事内容ってなに?
アメリカの資産に関してリビングトラストを作りたいという日本人の依頼者の方の多くが、親戚やご兄弟などの家族が日本にいらっしゃる方、またご夫妻でアメリカに暮らしていて老後に頼れるお子さんがいない方などです。ご自身が高齢になった時に、日本に住んでいるご兄弟やご親族などを後任受託者に設定したいという希望をお持ちの方が多くみられますが、後任受託者に指名された方は、実際に何か起きた際の実務量が非常に多い、ということをぜひ知っておいていただければと思います。
- 主な仕事内容の一例
- 財産目録の作成
- 資産鑑定評価の取得
- 毎日のキャッシュ管理と投資
- 請求書および事務費用の支払い
- 財務記録の作成・保管
- 不動産管理と積極的運用、必要に応じた不動産売買
- トラスト文書並びに連邦および現地法で定められたその他の責任の遂行
- 明確に定義された投資目標と目的を含む投資方針の確立
- トラスト資産から得られた収益収受・管理
- 必要に応じた証券売買
また設定者が亡くなった後に、受託者が日本にお住まいの場合、トラスト資産の特定や財産分与手続きに時間を要してしまうこともありますが、受益者が早く資産を分けてほしいという気持ちから、訴訟を起こしてくるというケースもあります。
では、誰を選任したらいいの?というご質問をよくいただきますが、後任受託者の適任者が身近にいない場合、トラストの後任受託者としてトラストカンパニーや銀行など、専門でサービスを提供している会社を指定しておくという方法があります。このようなプロに任せた場合、長年の経験や専門的知識があるので安心して仕事を任せられますし、弁護士や会計士とも密に仕事をしているため、頻繁に起こりやすい係争を回避したり、第三者として客観性が保たれるのがメリットです。ご家族や身近な方に、極端な責任や負担が偏らないという配慮もできます。ご自身が元気なうちから信頼のできる後任受託者を選んでおいて、日本のご家族に実務面での負担が行かないように考えておくことも大切だと思います。
日本と同じ感覚だと危ない!アメリカにおける「成年後見人」
日本には法定後見人(被後見人の配偶者、直系卑属、兄弟姉妹)以外の人が家庭裁判所に申し立て、委託される「成年後見人制度」があります。この成年後見人制度は、被後見人の財産管理や日常生活の世話を行う、被後見人を守るために定められたものです。
「アメリカでも同じように成年後見人を立てればいいんじゃないの?」と思っている方がたまにおられますが、日本と同じ感覚で捉えるのは危険です。
というのもアメリカで後見人を選任するためには裁判の手続きが必要で、これに少なくとも弁護士費用として1万ドル程度かかります。被成年後見人は自分で、法的・経済的な意思決定を行う権利を制限されてしまうので、選任手続きは慎重に進めなければなりません。また、毎年裁判所に後見人として年次の会計報告書を提出を求められる場合もあり、こちらも毎年2万ドル程度かかってくるなど、何かと費用がかさんでしまう傾向があります。
様々な面でアメリカと日本では法律が違ってきますので要注意です。
まとめ
前編の記事でもお話しましたが、リビングトラストだけがプロベートを回避する唯一の方法ではありません。またその方の国籍や、家族構成、資産状況などによって、もっとも効果的なエステートプランニングの方法は人それぞれです。
将来を考えたときにハワイでの生活を引き払って日本に帰りたい方もいらっしゃれば、ハワイでケアホームや老人ホームに入りたい方など、ご希望はさまざまだと思います。 いずれにしても、ご自身の将来のオプションについて準備し共有しておくことで、周囲の方も含めて安心できると思います。
弁護士はクライアントの味方です。ぜひなんでもお気軽にご相談ください。
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