ハワイで沸く「おまかせ寿司」ブーム。100ドル台のおまかせメニューを謳う寿司店が増殖しているが、その中で異彩を放つのが「すし魚神」。 寿司職人というより日本料理の経験が長いオーナーシェフの辻さんが “ただの寿司”で終わらせない端正な仕事を披露する。
すし魚神オーナーシェフ
辻 大志 さん
辻 大志(つじ ひろし)さん (辻のしんにょうは正しくは一つ点)
すし魚神オーナーシェフ
1976年石川県金沢市 生まれ。高校卒業後、調理師専門学校を経て金沢の老舗「料亭旅館 浅田屋」で修業を積む。富山県で展開する和食チェーンの経営に携わった後、2018年ハワイに移住し、「凜花」のシェフに。2024年2月、すし魚神をアラモアナにオープンした。
お客様に喜んでもらうのが職人の仕事
寿司一貫に魂を込めます
石川県の金沢で生まれ、身近に日本食がありました。競技バレーボールの世界から料理の世界に転じて、老舗料亭から始まり足掛け20年以上和食に関わってきましたが、楽しくて仕方なかった。自分で言うのも何ですが、本当に料理が好きなんです。
和食の世界で経験を積めば積むほど、その奥深さ、和食の凄さを実感しました。今はジャンルを問わず、例えばイタリアンでもフレンチでも和食の要素を取り入れたりしますよね。料理の世界に垣根はない。今後どんなジャンルの料理に進んだとしても、和食の技術は活きる。ならば、和食を突き詰めるようと決めました。けれど、そのステージは海外でというのはいつも頭にありました。そんな時、ハワイの「凜花」で料理人を探しているという話をいただいたのです。実は「凜花」の園田料理長の奥様が僕の同級生。そんなご縁もあり、ハワイで働くことを決意しました。この渡米は海外への第一歩。その先には米国本土、そして世界へという野望もありました。
ちょうど凜花がカカアコに移転する時期で、日々とても忙しく、寿司も和食も何でもやりました。開店時から料理の方針を変えず、多くの席数をこなす凜花は僕にはとても勉強になりました。ただ、あれだけの規模の店だと、日々の仕事をこなすのが精一杯で、自分なりの工夫をする余裕がなかった。僕としては、もっと小さな規模で、自分だけの料理の世界を作りたかったんです。凜花で5年以上が経過し、そろそろ自分の店を持つ、その夢を実現する時だと思いました。
実は、今回の独立・開店を決めたのは、この物件があったからです。カウンター8席のみというこの物件を見て「ここだ」と直感しました。ハワイで飲食経営するなら、コストを抑えて小さくやらないとやっていけません。その意味で、ここは最適でした。ちょうどその時期、一緒に経営するビジネスパートナーと巡り会えたのも大きかったです。
店名の「魚神」は、富山県で「のどぐろ」の愛称です。神さまと呼ばれるほど、のどぐろという魚が珍重されていたわけですが、僕が尊重したいのは、魚を大切にするその姿勢。お客様に提供する以上、僕は扱う魚にはこだわり、大切にします。魚の卸業者からは、僕の注文は難しいとよく言われます。でも、魚へのこだわりは譲れない。
僕の料理にスタイルがあるとすれば、「魚神スタイル」です。自分の流儀でやっています。「すし匠」の中澤圭二大将からは、海鮮でも江戸前でもない新しいジャンルだと褒めていただきました。日々、創造するのが好きなんです。料理は自由。そこが面白い。これじゃないとだめ、なんてないんです。
だから、うちのおまかせは、毎日何かしら変わります。ハワイでも季節感を大切にしています。同じ一貫の寿司でも、何か僕なりの一手間、一品を加えることで、それが個性になり”仕事”になる。美味しいネタをシャリに載せるだけなら誰でもできます。せっかく来ていただいたのだから、私の仕事を味わってほしいんです。
現在は15品で150ドルのおまかせコースのみ。おかげさまで3ヶ月待ちというお客様もいます。お待ちいただくお客様をどうやって喜ばせようかと、日々ワクワクしているんですよ。今後、いろいろな展開をすることがあっても、この場所はなくさないと思います。僕にとっては、初めての自分の城。思い入れがあります。素材や料理に妥協は決してありませんが、コスト的に決して無理することなく理想の料理を提供するのも料理人の腕。作り手が幸せでないと、お客様を幸せにできません。経営者として、今はそんなことも実感しています。
住所: 436Piikoi St.
営業時間: 17:00~19:00、20:00~22:00
定休日: 日曜・月曜
予約: 公式サイトからhttps://www.sushigyoshin.com/