官と民・大手とベンチャーのコワーキングスペース
「アントレプレナーズ・サンドボックス」
ハワイ州の技術開発部門であるHTDC(Hawaii Technology Development Corporation)が、官民のコワーキングスペース「アントレプレナーズ・サンドボックス」という施設を立ち上げた。カカアコ地区の海側、あまり人の来ないエリアに、ポンと現れるモダンなデザインが印象的なビルだ。
その名の通りアントレプレナー(起業家)向けのシェアオフィスであり、そしてイベントやワークショップなどが開催できるスペースを兼ねた施設でもある。チケット制でオープンスペースの利用、また固定のオフィスとしても入居することも可能となっている。
HTDCはハワイの技術開発領域での発展、事業や人材の開発を標榜しており、その拠点となるのがこの「アントレプレナーズ・サンドボックス」だ。
オープンはコロナ拡大の直前の2020年2月。不運にもオープン直後にロックダウンが始まり、一時運営は縮小となっていたが徐々に再開しつつある。
(下写真はロックダウン前のイベントの様子)
そして、この施設のユニークなところが、ベンチャー企業だけでなく、ハワイの大手企業、例えばハワイアンエアライン、サーブコハワイ、セントラル パシフィック バンクなどハワイを代表する企業の開発部門もテナントとしてオフィスも構えていることである。
ディレクターのミシェル・チュンさんにお話を伺った。
「こういう時だからこそ、ハワイオールで助け合うマインドが生まれています。官と民、また大手とベンチャーの間のコラボレーションが進む良い転機になるのでは」のミシェルさんは語る。
ミシェルさん :
「このアントレプレナーズ・サンドボックスを立ち上げたHTDCは、テクノロジー領域での経済活性を促進し、ハワイ全体でのテック人材増加や賃金レベル向上を目指している組織です。そのために、ハワイ州と民間セクター、また大手企業とベンチャー企業との協業を促進する場づくりを目指しています。
私自身、以前は大手の不動産会社でマーケティングやデータを扱う仕事をしていましたが、民間企業の内部努力は社内にとどまりがちですよね。ここでは、大手民間企業の中にあるスキルや人材を共有、またベンチャー企業の新規技術などを相互に生かす、そんなプロジェクトが生まれています。
すでに具体的な取り組み事例も始まっています。例えばトヨタ・スバルなどのディーラー最大手社のサーブコ社とハワイ州のDMV(車両や運転免許の管理部門)が協力し、デジタル車両登録システムの開発が進捗中です。古いシステムの残るハワイ州の制度がデジタル化することで民間企業側にもメリットが大きい。こういったwin-winになる事例が今後、ここから増えていくと思います。
また官民のコワーキングだけでなく、例えばハワイ大学の起業志望の学生とベンチャーキャピタルをつなぐなどの産学の連携や、ハッカソンなどでの人材開発など、ハワイ全体の底上げにつながる企画を打ち出しています。」
限られたリソースだからこそ、縦横での連携が州全体の強化のキーとなる。こういう新しい場を通じて、ハワイを内側から変えていく動きが生まれてくるに違いない。
ハワイ・エグゼクティブ・コラボラティブによる
「TRUE イニシアティブ」
こういった動きに賛同し、ハワイ実業界のCEOたちで作られるハワイ・エグゼクティブ・コラボラティブも、次世代のハワイの鍵となるテーマをまとめ、提言している。それが、この「CHANGE」と名付けられたフレームワークだ。
ハワイに変革をもたらすテーマとして下記の6つの領域を掲げている。
・健康&ウェルネス
・アート&カルチャー
・自然環境
・行政
・教育
これらを実現するための具体的な取り組みとして、テクノロジーの面から振興する「TRUE イニシアティブ」がスタート。それぞれの領域に強い経営者がリーダーとなって推進役となっている。
「低コストで、効率的、持続可能性の高いハワイを作るには??」という問いに様々な角度から取り組んでいる。
推進役のおひとりが、セントラル パシフィック バンクの代表取締役会長のポール与那嶺さん。セントラル パシフィック バンクは、アントレプレナーズ・サンドボックスにもオフィスを構えるテナントの一つでもある。
ポールさんにお話を伺ってみた。
ポールさんは以前は日本IBMの代表取締役を務められ、経営とテクノロジー領域に精通されている。
ポールさん:
「次世代を考えるとき、今までなかった斬新なテクノロジーによって社会がガラリと変わるというイメージで”イノベーション”という言葉が使われることが多いですが、私はハワイを変えていくのはまずその手前の”既存のテクノロジー”の効率的な導入だと思います。」
ポールさん:
「グローバルスタンダードとなっているようなサービス、例えばセールスフォースのようなSAASもハワイでは導入が遅れています。そういう意味では、私はこのアントレプレナーズ・サンドボックスは、イノベーション拠点ではなく、”スーパーユーザーセンター”と捉えています。
つまりハワイにマッチしたベストプラクティスを検証・導入し、ハワイ全体を効率化させ、レベルアップしていくために立場や垣根を越えて共有していく、そういう場所として機能していくべきと思います。
例えば、セントラル パシフィック バンクもここで、AIコールセンターの開発を行ったりしていますが、このノウハウを自社だけで抱え込むつもりはありません。どんどん、この場所から他社とも技術ノウハウの共有を進めていきたいと思っています。
そして、今後のハワイ経済の方向性についてですが、わたしはやはり観光と軍需産業という今までのハワイの2大産業の軸から考えていくのが、現実的な路線なのではと考えています。 たとえば、あまり知られていませんが、米軍基地があるおかげでハワイには、サイバーセキュリティに関する世界の最先端技術が集まっているのです。
たとえば、こういった情報セキュリティ、または観光テックなどの新領域と観光とを組み合わせて、カンファレンスやコンベンションなどの形で誘致するなどの、新しい仕掛けが必要ではないかと思います。」
資源に乏しく、常に輸送費がかさむ場所であり、人材採用も難しいハワイ。
いきなりハワイの中に「ミニ・シリコンバレー」を作るといったウルトラCを目指すのではなく、今あるハワイのリソースを循環させ、いままでの無駄を省き、「ハワイオールでの州としての経済発展」を目指そうという胎動があちこちに起きている。
シリーズ3本でお送りした、ウィズコロナ、アフターコロナ時代の「ハワイ経済の新しい動き」。いかがだっただろうか。新型コロナウィルスの今後の感染がどうなるかの予測は難しいが、そんな中でもあり得る未来に向かって、「アロハスピリット」を持って進んでいくハワイの姿を、「ハワイに住むnet」では今後も紹介していく。
「ハワイ経済の新しい動き」 Vol.1と2の記事はこちらから>>