「ダナ・キャランをつくった男」という異名を持つビジネスパーソン 、滝富夫さん。2005年よりハワイのホノルルカントリークラブのオーナーとなり、再建を果たした。そんな滝さんにハワイでビジネスを成功させる哲学について伺った 。
ハワイでビジネスに迷ったら答えは一つ。 人とのつながりを大切にすること、それだけです。(滝 富夫)
滝富夫 ホノルルカントリークラブ オーナー
1935年愛知県生まれ。慶應義塾大学法学部卒業後 、伊藤忠商事入社 、60年 、父が経営するタキヒヨーに入社。父の死去により26歳で社長に就任。73年、ニューヨークにTAKIHYO INC.を設立し 、アン・クライン社を買収 。1985 年 、 ダナ・キャラン社を立ち上げ、世界的ファッションブランドに育てる 。2005年、ハワイのホノルルカントリークラブのオーナーとなり、ハワイ在住。タキヒヨー株式会社名誉顧問、学校法人滝学園理事長ほか複数の要職を兼務する 。
26歳で社長になってからビジネス一筋で生きてきた
このテラスでゴルフコースを眺めていると、やっぱりハワイは良いと感じますよ。風が心地良いし、温かい。ニューヨーク、パリ、東京と色々な場所でビジネスをしたけれど、ハワイは特別な場所ですね。
今思えば、若い頃抱いていた夢とは80%違う生活を送っています。 私の生家が経営していたタキヒヨーは、1751年創業の和装の商社。扱っているのが和服ですから、若い頃はこのまま続くわけないと思っていたんですが、父が亡くなり20代で社長になっちゃった。 ちょうどハーバードビジネススクールの入学通知が来たところで留学も断念しなくちゃならないし、それは大変でした。洋装への転換を大胆にはかって、海外に進出。アン・クラインやダナ・キャランなどの才能に出会って、ファッションビジネスに邁進しました。
私がビジネスで大切にしてきたのは、人と人とのつながり。つながっていることがとても大切なんです。ハワイでゴルフ場を経営することになったのも、人間関係から。ここは元々ヤナセが作ったゴ ルフ場でした。でも赤字続きで、テコ入れしようと間に入った商社から、請け負ってもらえないかと依頼が来た。しまいには、梁瀬さん本人から「やってくれないか」と言われて。直後に梁瀬さんが亡くなられて、何だかゴルフ場経営が遺言みたいになってね。やらざるを得ない状況になったんです。で、コースを見てみたら、赤土ばかりでコンディションは悪い。クラブハウスの食事も凡庸な味でした。ゴルフ場というのは、コースが綺麗で食事が美味しければ人気が出るはずなんです。まずはスプリンクラーを一新して、水はけを良くしました。土の種類も混在していたので、全部入れ替えた。まるで最初からゴルフ場を作るようでした。 優秀なシェフを雇い、施設も順次改築していったら人気が出てきて、 皆がプレイしたいコースになってきた。ようやく5年前です、黒字になったのは。8年かかりました。現在は無借金の健全経営です。
ビジネスは「困った」から始まる。日本人にはそれが苦手。
真面目に品質を上げていけば人気が上がるという意味では、ファッション業界もゴルフ場経営も同じでした。いや、ビジネスは何でも同じなのです。大切なのは「人」。自分一人では何もできないですから、いかに人を自分の世界に引き入れるか、これが大切なのです。会社は、そこにいる人がやる気になったら黒字になるものです。
人間関係を構築するコツはね、言いたいことを言う、聞きたいことを聞く。これです。困っていることがあったら「困っている」と正直に言わないと。人との間に壁を作ったらダメ。壁を作ったまま会話するなら、それは時間の無駄です。
よく私は「『困った』から始まる」と言っているんですが、会社も同じ。経営とは、イコール問題解決です。問題を解決するには、まず問題を見つけないと。日本人は実はそれが苦手。経営者に「問題はあるか?」と訊くと「大丈夫です」と言う。でも実際は問題山積みなんです。私が特別顧問をしていた韓国のサムソンでは、「問題あるか?」と聞くと、何個も出てきたものです。それで彼らは急成長した。経営は、問題を一つずつ解決していくこと。実にシンプルです。皆さん、勝手にそれを複雑にしているだけです。
そして、思い立ったらすぐ行動。 反対されてもいい。自分で信じたら貫いてください。私もゴルフ場経営する時、周囲に猛反対されました。でも、行動を続け、一つ一つ問題を解決してきた。それが現在です。ハワイではゴルフ場経営しかしていませんから、この気候の中でのんびりしています。日本だと、今でもやることがたくさんあってね。その意味ではやっぱりハワイはホッとできる場所なのかもしれませんね。でも僕はいつも何かチャレンジしていないと元気がでない。またハワイで何か始めるかもしれませんよ。
※この記事は「ハワイに住む」マガジンVol.37(2019年4月15日発行号)から作成しています。