今どうなの?ハワイのレストラン 話題のシェフ3名にインタビュー(バー・マゼ / キー・チャン氏、ナチュール・ワイキキ / 小川苗氏、ミロ・カイムキ/クリス・カジオカ氏)

今どうなの?ハワイのレストラン 話題のシェフ3名にインタビュー(バー・マゼ / キー・チャン氏、ナチュール・ワイキキ / 小川苗氏、ミロ・カイムキ/クリス・カジオカ氏)

更新日 2023.02.23

コロナ禍を経て「ハワイのレストラン、今どうなの?」と聞かれることが多いです。でもご安心ください。ハワイのレストラン、とても元気です。今回は今ハワイで注目のシェフ3人(バー・マゼのキー・チャン氏、ナチュール・ワイキキの小川苗氏、ミロ・カイムキのクリス・カジオカ氏)に「ハワイの食」への想いを伺いました

レストラン「BAR MAZE/バー・マゼ」
ヘッドシェフ キー・チャン氏

バー・マゼが挑戦するカクテルと創作料理の競演
陰で支えるのは「和」の極意

BAR MAZE
有名バーテンダー、ジャスティン・パーク氏のカクテルと、ヘッドシェフであるキー・チャン氏のコース料理とのペアリングが最大の特徴(カクテル込み$175)。

キー・チャン 1992年韓国・仁川生まれ。「ザ・フレンチランドリー」「ベヌ」など米国の三つ星レストランを渡り歩き、「オーベルジーヌ」では同店をミシュランの星を獲得する有名レストランに成長させた。
2021年より現職。


バー・マゼは予約の取れない人気レストランになっています。
「元々広くはないスペースで客席数も少ないから、たしかに予約は早く埋まりますね。でも、僕にとってはこれくらいの空間がちょうどいい。自分でサーブすることもありますし、お客様の顔を見られるのはうれしいことです。メニューの品質にも目が行き届きます」

韓国の家庭料理から料理への興味が芽生えたとか。
「祖母が韓国の家庭料理を作るのをいつも見ていました。素材を無限にアレンジするのを見て興味を持ちました。スパイスをやたらに使うのは現在の私のスタイルとは違いますけどね(笑)」

ダシを使うなど、日本料理からの影響を感じます。
「これまで修業したレストランも、基本はフレンチ・ジャパニーズ。ダシ、かつおぶし、こんぶ…日本料理から学んだことは多く、今もリスペクトしています。素材を重視する私の料理手法は日本料理の思想に近い。(パートナーでありバーテンダーの)ジャスティンもカクテルに柚子を使ったり日本の影響が大きく、彼とはいつも日本の素晴らしさについて話しています。日本料理は最高にエレガント。常に僕の料理のお手本になっています」

カクテルと料理のペアリングは初の試みですね。
「僕にとっては最高にエキサイティングな体験。料理もカクテルも無限にアレンジできるからバランスがとても大切で、常にジャスティンと議論しながらメニューを構築しています。メニュー作りに正解もゴールもない。だから面白いんです。一つ、僕たちが気をつけているのは“季節”を感じさせること。これまでのハワイの料理には、季節感が圧倒的に欠けていました」

ハワイのレストランを、どう見ていますか。「シェフにとって、とても厳しい環境であるのは事実です。地元の生産者も少なく、良質な素材を入手するのが困難。でもそんな環境でこそ料理人の腕の見せどころです。手に入る素材を最大限に活かしてメニューを作るのは素晴らしいチャレンジ。今はそれを楽しんでいます」

ハワイに来て1年半ですね。
「ちょうど自分のレストランをやりたいと思っていた時にジャスティンに出会い、運良くこのお店をオープンすることができました。ハワイでの経営は大変だけど、小さい規模だからやれています。食材の無駄も少ないし、経営に規模感は大切な要素です。一方でハワイの生活環境は気に入っています。海も街も近くて風もいい。料理の発想にも良い影響を与えてくれます」

オーナーバーテンダーのジャスティンはどんな人ですか?
「ジャスティンは、最高のホスピタリティーを持っていて、いつも周囲を楽しませる。私には足りない点です。日本のテイストをうまく取り入れる所もいつも見習っています。互いにインスパイアされて、良い刺激になっている。今のところは最高のコンビですね」

理想のレストランとは?
「実は僕は日本の居酒屋スタイルが好き。皆がリラックスして楽しめる場所が理想です。カジュアルでも料理のレベルが高い場所を作れたら最高ですね」

今後の夢、目標は何ですか。
「ハワイに良い農家、漁師を育てて、じっくりと付き合っていくこと。もっと地元の素材を使いたいからね。その先には、もちろんシェフを育てるというステップも見据えています。今はコース内容を少しずつ変えていき3ヶ月ほどで全て入れ替わるペースですが、もう少しペースを早めたいかな。でも、何より僕たち作り手が楽しまないと。そうでないと、お客様も楽しめないですからね」  

日本料理は最高にエレガント 常に僕の料理のお手本になっている。(キー・チャン)

BAR MAZE(バー・マゼ)
住所:604 Ala Moana Blvd. 
営業時間:17:30〜22:30
休み:月・火曜
予約はウェブサイトからのみ  www.barmaze.com


 

レストラン「natuRe waikiki/ナチュール・ワイキキ」
エグゼクティブ・シェフ 小川 苗氏 

ナチュール・ワイキキが目指すのは「環境を守る料理店」
シェフの腕の見せどころです
 

natuRe waikiki
テイスティングコース( 6 品$ 8 5 〜/ 2 0 : 3 0L.O.)とアラカルトを揃える。ハワイ飲食界で最も権威ある「ハレアイナ賞」を2022年受賞。

おがわ・なえ 1992年東京都生まれ。専門学校卒業後、「NARISAWA」に就職。21歳で渡米し、ニューヨーク、パリで修業の後、2017年「パリハワイ」のスーシェフに就任。2021年より現職。「RED U-35 2019」でGOLD EGGおよび岸朝子賞、滝久雄賞を受賞。


NHKのテレビ番組で取り上げられましたね。
「すごい反響で驚きました。お正月に放映された番組なので、もう半年以上経つのに今も“テレビを見ました”と日本からお店に来てくださるお客様がいて。ありがたいことだと感謝しています」

ハワイの自然環境への思いがあるそうですね?
「環境を守ること、サスティナブルというのは私の大きなテーマ。地球の自然、環境を守るためにシェフとして何ができるか。それをいつも考えています」

ナチュールという店名にもその想いが込められている?
「その通りです。私は東京、ニューヨーク、パリで料理の修業をしてハワイに辿り着きました。それまでは良い食材でどれだけ美味しい料理を作るかが全てでした。ハワイに来て、この豊かな自然に触れるうち、魅了され癒されている自分がいたんです。コロナ禍で社会が不安定な中でも、絶対的な大自然の中にいると安心できた。この美しい自然を守っていきたいという思いがより強くなりました」

初体験だったんですね。
「料理以外にこんなに興味を持ったのは初めてです。環境問題を勉強するようになり、“食”が自然と直結していることに気づきました。食肉のための家畜がCO2を発している、食材を得るために生態系や自然や破壊されている。私たちシェフは、日々何をやっているのだろうと悩みました」

答えは出ましたか?
「私は芸術家一家の生まれで、いつも誰かが何かを作っている環境でした。創造すること、造形美の追求の延長に料理がありました。けれど、自然の造形美に勝るものはない。畏怖するほどの究極の美です。そんな視点で見たら、どうやって守るかは大変な問題です」

具体的にどんな取り組みを?
「まず地産地消。地元の食材を使うことで輸入にかかる燃料やCO2を減らす。食べ残しは集めて肥料として農家に納めます。モロカイ島の鹿やハワイ近海のタアペという魚が大量発生して生態系が崩れたと聞き、これらを多用するメニューを考案しました。今ではコースの一品一品に環境にまつわる意味が込められています」

牛も一頭買いされているそうですね。
「高級レストランが美味しい部位だけを買い占めてしまい、それ以外は捨てるという話を聞き、うちのお店では一頭買いして骨もスープに使います。全ての部位をうまく調理することこそ、料理人の腕の見せどころです」

ハワイの飲食業界をどう見ていますか?
「経費が全て高く、食材の入手も困難。東京やニューヨークに比べると不利な条件ばかりです。そんな中でもハワイの飲食業界全体のレベルを上げようと奮闘している先輩がいます。地元の食材をうまく使い素晴らしい仕事をしている。私も見習いたいです。“ハワイだから仕方ない”と言ってしまえばそれで終わり。この不利な環境にどこまでも抵抗して、どれだけのことができるか。それが勝負だと思います」

これから目指すことは?「レストランはやっぱりお客様が第一。どこまでもお客様が喜ぶことを追求していきたい。また、食材を育む農家さんに協力して、助けていきたい。1つのレストランができることは微々たることでも、そこから良い活動の輪が広まっていけばいいなと思っています。環境の大切さに気づかせてくれた、私を目覚めさせたハワイに料理の力で恩返しができれば本望です」

「ハワイだから仕方ない」は料理人の禁句 どこまでも抵抗して、できることを追求する(小川 苗)

natuRe waikiki/ナチュール・ワイキキ
住所:413 Seaside Ave. 
電話:808-212-9282
営業時間:17:30〜22:00 
休み:月曜
URL www.naturewaikiki.com


 

レストラン「MIRO Kaimuki ミロカイムキ」
オーナーシェフ クリス・カジオカ氏

ミロ・カイムキが意識する地元食材の活用と「季節感」
手本はつねに日本料理にある

MIRO Kaimuki
個性的な料理で数々のレストランを予約の取れない名店にしたカジオカ氏が自身の地元に出した創作フレンチ。コースは85ドル〜。

クリス・カジオカ ハワイ出身。カリナリー・インスティテュート卒業後、ニューヨークの「パ・セ」など名門レストランでの修業を経てハワイの「ヴィンテージ・ケーブ」初代料理長に。その後、「セニア」をオープンし、数々の料理賞を受賞。「ミロ・カイムキ」をはじめ多くのレストランを手掛ける。


近々、夢が叶うと伺いました。
「私がリスペクトしている日本で自分のレストランをオープンするのが私の夢でした。来年、京都に創作レストランをオープンします。実は今回初めて京都を訪れたのですが、歴史や日本文化の中に食の文化もしっかりと根付いている。とても奥が深い場所だと感じました。野菜など素材の豊富さにも驚かされます。もともと日本料理から刺激を受けることが多く、『神楽坂石かわ』にはかなりの頻度で通いました。これでもかと言うくらい素材の魅力を引き出す力は、日本料理のパワーそのものです」

ハワイでもっとも忙しいシェフと言われています。
「たしかにクレイジーなくらい忙しいです。現在は、常駐している『ミロ・カイムキ』に加えて、サイミンとハンバーバーの『パパ・カーツ』、マウイ島マリオットホテルにある『Waicoco』の経営に携わり、カイマナビーチホテルの『ハウツリー』は監修を任されています。同じく監修するワイキキの『AGARU』もオープンしたばかり。そして来年は京都です。食は人を変える力、街を変える力を持っていると思います。それを自分なりに追求したら、ここまで来ました。たぶん、この勢いは止まらないでしょうね(笑)」

カジオカさんにとって理想の料理とは?
「もちろん、お客様が満足するというのは大前提。そのためにミロ・カイムキでは、コース料理を毎月総入れ替えします。これはシェフにとってはかなりハード。毎月従業員に試食してもらいコース料理の説明をします。私がもっとも意識しているのは、地元の食材を使うこと、そして、季節を意識することです。ハワイの料理界にはこれまで季節という意識がなかった。常夏ですから、それは当然です。サンフランシスコにいた時には、まだ季節感はありました。日本の季節感が本当に羨ましい。秋にはカボチャや松茸、冬は蟹やふぐ、春は山菜など風物詩がある。私もそんな感覚を大切にしたい」

ハワイのレストラン業界をどう思いますか?
「たしかに過酷な環境です。食材も家賃も人件費も高いし、良い食材はなかなか手に入らない。でもそれを改善する努力も必要です。農家を育てるのもその一つ。良い農家は確実に増えています。サスティナブル(持続可能)という考え方は食の世界も同じ。食材を育むこともシェフの使命です。そしてこれを次世代のシェフに伝えるのも使命。環境と食は切っても切れないもの。最大限の努力をすべきです。同時にレストラン自体がサスティナブルであるためには利益もしっかり出さないと。ビジネスとして成長しないと発展もありません。ハワイのレストラン業界を豊かにするには経営者が頑張らないといけないんです」

ご自身の今後の夢を教えてください。
「近々で言えば、京都のレストランを成功させること。私は日系4世ですし、大好きな日本で成功するのは大きな夢です。日本料理は最高にソフィスティケート。日本食の流儀は私の根幹にあり、以前いたレストランではダシを取るためにカツオを丸ごと買ってもらったほどです。そんなシェフはハワイにはいません。いつも日本とハワイのミックスを自分の中で考えています。さらに夢を言えば、春と秋は日本にいて、あとはハワイにいる生活を送りたい。でもこれだけハワイで経営していると難しいかな(笑)」
 

毎月コース料理を全て入れ替える。
ハードだけどお客様のために必要だから。(クリス・カジオカ)

MIRO Kaimuki ミロカイムキ
住所:3446 Waialae Ave. 
TEL:808-379-0124
営業時間:17:00〜22:00 
休み:月・火曜
URL: www.mirokaimuki.com

※この記事は「ハワイに住む」マガジン51号の記事より再構成して掲載しています。

関連キーワード

合わせて読みたい記事

各カテゴリーのお知らせを見る

不動産会社・
エージェントにお問合せ
閉じる