【注意・免責事項:本記事はあくまでも参考情報の提供を目的としており、法的助言を構成するものではなく、法的助言として依拠すべきものではありません。本記事にてご提供する情報等に基づいて行為をされる場合には、必ず個別の事案に沿った具体的な法的助言を別途お求め下さい。】
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今日はアドビス法律事務所のローレル・ぺぺ弁護士に、アメリカにおけるトラストや相続についてインタビューした。ぺぺ弁護士は、今春よりアドビス法律事務所に加入されたが、このトラストや法律の領域についてはすでに7年以上のキャリアを持っており、相続関連の訴訟も数多く手掛けて来たプロフェッショナル。
その経験から、遺産を相続する人びとが揉めないために、どのようなエステートプランニング(遺産計画)や準備が必要かについて、またアメリカの遺産法の今後の動向についても伺った。
アドビス弁護士事務所に新加入
ローレル・エリザベス・ぺぺ弁護士
アドビス法律事務所の創業メンバーの一人であるマロッツ (古屋) 有沙弁護士は、日米間のクロスボーダーのトラストやエステートプランニングに強い。
そこに強力なメンバーとして、トラストやエステートプランニング、さらには遺産に関する訴訟案件も数多く取り扱ってきたぺぺ弁護士が加わった。
実はぺぺ弁護士が、このトラストやエステートの領域を目指すきっかけとなったのは、彼女自身の実体験だったのだそうだ。
ぺぺ先生:
まだハワイ大学のロースクールの学生だった頃の話なのですが、私の祖母が病気になった際、祖母のトラストの受託者(トラスティー)や委任状の代理人を私が一括して担うことになりました。
エステートプランニングは「あなたが病気になったら・・・」、「あなたが死んだら・・・」という話がスタートになります。誰しも自分が病気になることや死ぬことを考えるのは気が進まないものですし、できれば避けたい話題です。私の祖母も事前になにも話してくれなかったので、いきなり大きな責任を引き取ることになりました。しかし、祖母のエステートプラン書類を何度も何度も読み込み、弁護士の力も借りながら、実際に私がトラスティー(後任受託者)や代理人として、祖母の遺産管理や相続などの実務を完了することができました。
当時ロースクールの学生だった私でもエステートプランの法律文書を読み、完全に理解することが難しかったことから、この体験がインスピレーションとなって「自分と同じように困っている家族を手助けしたい」という気持ちが生まれ、弁護士としてこの道を選んだのです。実際のクライアントと接する中で、関わる人々の感情が交錯し、思いがけないシチュエーションが起きることをたびたび経験しました。クライアントやご家族のリアルな人生は、決して法律の教科書通りには行かないのだということを日々学んでいます。
そして死という重いテーマだからこそ、関係する人々の気持ちに寄り添うこと、このプロセスを通じて明るい側面を見いだせるように務めることが大切だと思っています。
ハワイ大学を優等で卒業したエリートのぺぺ弁護士だが、公立の学校で育ち、高校時代から大学時代まで10年以上もスターバックスに勤続して、バリスタから店長まで努めたというハードワーカー。”普通の庶民”の感覚を大切に、明るく話しやすい雰囲気で接してくれるパーソナリティの持ち主だ。
そんなぺぺ弁護士は遺産に関する訴訟を100件近くも手掛けてきたという。泥沼化してしまいがちな遺産での揉め事は回避するにはどうすべきか?
実体験からぺぺ弁護士に語っていただいた。
できれば避けたい!遺産やトラストにまつわる訴訟。
大切なのは、エステートプランニング(遺産計画)
ぺぺ先生:
エステートには、まずプランニング(遺産計画)のフェイズがあり、時がきたらそれを実施するアドミニストレーション(運用・実行)へと進みます。しかし、それでも揉めてしまった場合には、リティゲーション(訴訟)へと進むわけです。
この中で、プランニングが最も大切になります。
トラストを設定する方に「このプロセスの全てはあなたのためであり、あなたがいなくなった後に、家族が争わないために必要な準備である」と理解してもらうこと。そのためには「どれだけオープンに話し合えるか」がキーになってきます。
中にはご家族との関係が円満でなかったりと、過去の結婚の話など話しづらい内容に踏み込まざるを得ないこともあります。しかし、時間がかかってもそれらの会話を通じて、関係するみなさんとの信頼関係を築き、将来の遺産の対象となるものを包み隠さずリストアップしてもらうところから、ようやくスタートとなります。
多くの方にとっては法律用語の理解は難しいもの。関係する人々がそれぞれ違う解釈をしていたとしたら、それがのちのちのトラブルの元になってしまいます。わたしは細かい点までできる限り同じレベルで理解していただき、将来的に起きうるさまざまなシナリオを共有するようにしています。
次がアドミニストレーションのフェイズとなります。例えば病気などでトラストの設定者自身がトラスト管理をできなくなった際に後任受託者にトラストの資産管理を任せたり、設定者が亡くなった後は、トラストの内容に沿ってトラスト資産の分配を行います。
実際に問題が持ち上がってくるとしたら、このアドミニストレーションのプロセスのどこかです。エステートプランの中に答えのない状況が起きた場合や、納得できない人がいた場合、リティゲーション(訴訟)へと発展してしまうわけです。逆に、プランニングの段階で、どれだけ細かくさまざまなシナリオを想定しておけるか、関係各位の合意が相互理解できているか。ここがしっかり出来ていれば、のちのちの訴訟は避けられることがほとんどです。
オンラインで検索すると”自分でもエステートプランニングが制作出来ます”という簡易フォーマットがいろいろと出てきますが、ほとんどの場合、それでは不十分です。簡易版では、起こりうるシチュエーションや、検討すべき事項がカバーされていないためで、これもまた訴訟の原因となります。
わたしは100件近い訴訟のケースを担当してきましたが、悲しいことに遺産を巡って家族がバラバラになってしまうこともありました。そういう結果にならないように、しっかりと早めの準備をおすすめしたいです。お気軽にご相談下さい。
アメリカの遺産法に起きている変化の兆し
ぺぺ先生:
アメリカでは現在、贈与税・遺産税の生涯非課控除税が約$13ミリオン(約18億円)と大きく設定されています。そこまでの資産を持っている人は超富裕層であるため、多くの一般のアメリカ人は、遺産税や贈与税の心配をすることはないと思っていたと思います。
しかし、この控除額が大幅に引き下げられるのではないか、しかも近い将来に実施されるのではないかという見方が出ています。現在の控除額は「減税と雇用法(TCJA)」に基づくもので、この増額された控除枠は2025年末で期限切れになる予定です。その後、議会が延長しない限り、控除額は約半分に引き下げられます。IRS(アメリカ合衆国内国歳入庁)は大幅な見直しを検討しており、この引き下げの可能性について弁護士の間でも話題とっているため、注視しているところです。
また、それに伴って浮上してくるのが「ステップアップ・イン・ベーシス」というコンセプトです。
「ステップアップ・イン・ベーシス」とは、相続の対象となる資産の価格(ベーシス)を、被相続人の購入時価格ではなく、相続時点での市場価値に調整される制度です。
例えば、親が昔に50万ドルで取得した家を、100万ドルに値上がりした時点で子供が相続し、その後、子供が150万ドルに値上がりした時点で売却するとします。
その場合、相続であれば「ステップアップ・イン・ベーシス」が適用され、相続時価格100万ドルー売却時価格150万ドル=50万ドルがキャピタルゲインとして課税対象になります。
一方で、贈与に関してはこの「ステップアップ・イン・ベーシス」が適用されず、贈与者(親)の取得価格がベーシスとして維持されます。よって、将来の売却時には親の取得価格50万ドルー売却時価格150万ドル=100万ドルがキャピタルゲイン税の対象になります。
今後もしも、贈与税・遺産税の生涯非課控除税が引き下げられるようなことになれば、キャピタルゲインの観点から、資産を贈与すべきか、相続すべきかを見直す必要が出てくる方もいらっしゃると思います。
一度立てたエステートプランは、変更があればあとから見直して修正していくことも可能です。ご自身の大切な資産を安心して次の世代に引き継いだり、ご自身が不自由になってきた際に希望通りの生活を続けらていくためにも、早めの計画をおすすめいたします。
ぜひなんでもお気軽にご相談ください。
アメリカだけでなく、ハワイー日本をまたぐ、クロスボーダーの相続やエステートプランニングについてのご相談はアドビス法律事務所までお問い合わせください。
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