ハワイを含むアメリカ合衆国で会社・法人を設立した場合に生じる、法人関連税務の基本知識をまとめました。
アメリカでの連邦法人税の支払い・法人税の算出方法
会社を設立したら、米内国歳入庁(IRS)に雇用主番号の申請書(Form SS-4)を提出し、連邦雇用主番号(FEIN)を取得します。この雇用主番号を取得することにより、連邦に関わる法税、給与関係税、失業保険の支払い義務が発生します。
非課税法人を除く米国法人は、課税所得の有無に関わらず、法人税申告書(Form1120)をIRSに提出する必要があります。Form 1120の提出期限は、会計年度終了後4ヶ月目の15日まで(例えば暦年の場合4月15日まで)です。(申告延長申請可)
なおパートナーシップや、Limited Liability Company(LLC)といった法人以外で法律的な権利を持つ組織体の場合、課税上の扱い次第では、組織自体は納税主体とならず、パートナーやメンバーがそれぞれの個人所得申告書で課税を受ける場合もあります。
米国での法人税の算出は、総益金(Gross Income)から、損金(Deduction)および損失(Loss)を差し引いて計算された課税所得(Taxable Income)に、税率をかける方法をとりますが、その際に財務会計上とは別に税務上の処理基準を採用することとなります。2017年度のC Corporationの税率は以下のとおりです。
課税所得 超 | 未満 | 税率 |
$0 | $50,000 | 15% |
$50,000 | $75,000 | $50,000超過分課税所得の25%+$7,500 |
$75,000 | $100,000 | $75,000超過分課税所得の34%+$13,750 |
$100,000 | $335,000 | $100,000超過分課税所得の39%+$22,250 |
$335,000 | $10,000,000 | $335,000超過分課税所得の34%+$113,900 |
$10,000,000 | $15,000,000 | $10,000,000超過分課税所得の35%+$3,400,000 |
$15,000,000 | $18,333,333 | $15,000,000超過分課税所得の38%+$5,150,000 |
$18,333,333 | - |
35% |
またアメリカでは、法人税と会計基準の会計処理が異なることがあり、損益認識のタイミングがずれるケースが頻繁に見られます。例えば、減価償却の方法は会計上と税務上では異なります。
予定納税(Estimate Tax)
予定納税とは、当期の見込み税額が$500以上の法人を対象に、当期確定税額の100%にあたる金額を4回に分けて25%ずつ分割納税し、当該年度中に前もって税金を納付する制度です。暦年(12月31日決算)の法人の場合、予定納税期限は、4月15日、6月15日、9月15日、12月15日と定められています。
最終的な法人税申告書での税額に、予定納税の金額が満たない場合は、その不足分について利息相当分のペナルティが課せられます。ペナルティを避けるためには、前年度における申告税額の100%を4回に分けて納付するか(適用制限あり)、年次換算法による納付額を見積計算する必要があります。
予定納税は通常、税務申告を担当している会計事務所が計算を行い納付金額を伝えますので、会計事務所の指示に従い予定納税の納付を行います。
予定納税の額が過少納付であった企業は、「過少期間」中の過少金額に、延滞利率を掛けた金額がペナルティとして科せられますので注意が必要です。
ハワイ州法人所得税
法人が州の法人税の課税対象になるかどうかは、その州で「事業活動を行っている(Doing Business)」かどうかで決定されます。各州によって課税対象となる事業活動の定義は異なりますが、一般的にはその州で従業員を雇用したり、事務所を保有したり、棚卸資産などの有形資産を保有している場合、直接の販売活動を行っていなくとも「事業活動」を行っているとみなされ、法人の活動や取引によって州に課税権が生じることを「ネクサス(Nexus)」と呼びます。
C Corporationの場合、ハワイ州の法人税率は、課税所得により4.4%から6.4%までの累進課税となっており、会計年度終了後4ヶ月目の20日(例えば暦年の場合4月20日)が申告書の提出期限です。連邦税同様に、予定納税を四半期ごとに行います。
ハワイ州一般消費税(General Excise Tax)
一般消費税(GE Tax)がハワイ州内のビジネス総所得に対し課せられます。税率は業種により0.15%〜4%で、オアフ島でビジネスを行う場合、0.5%が追加課税されます。GE Tax申告には、Form G-45とForm G-49という2種類の申告書を使用します。
Form G-45は、定期的な州への申告・納税に使用され、申告頻度は税額によって、各月、各四半期、半年ごとのいずれかで、提出期限は課税対象期間終了日の翌月20日です。また各企業・事業主は、Form G-45に加え、年間の最終申告をForm G-49を使用して行う必要があります。Form G-49の提出期限は、ハワイ州法人税同様、会計年度終了後4か月目の20日です。
給与関連の税金
米国で従業員を雇用する場合、雇用主は従業員の給与にかかる税金の源泉徴収義務、給与関係税の納税報告義務があります。これらの税金は通常「Payroll Tax」または「Employment Tax」と呼ばれます。
1)連邦所得税
給与から源泉徴収される源泉所得税は、個人の所得税申告の際には前払いとなります。米国では日本のような年末調整は会社では行わず、毎年4月15日までに個人の所得税申告書をIRSに提出します。従業員は入社時に扶養家族数申告数書(Form W-4)を雇用者に提出し、給与から毎月いくら源泉徴収してもらうかを申告します。このForm W-4は給与が支給される前に必ず記入、提出する必要があります。扶養家族の人数が変わり源泉金額を変更したい場合には新たにForm W-4を記入し雇用者に再提出します。
2)連邦社会保障税(FICA税:Federal Insurance Contribution Act)
社会保障税はソーシャルセキュリティー税6.2%とメディケア税1.45%からなり、それぞれ従業員と雇用者双方に同率で課税されます。
ソーシャルセキュリティー税は、年間課税対象上限額が毎年定められ、2018年度は12万8,400ドル(予定)となります。メディケア税は上限がなく、従業員(被用者)と雇用者が給与額に応じ、1.45%をそれぞれ負担します。
③連邦失業保険税(FUTA税:Federal Unemployment Tax Act)
失業保険税は雇用者が負担します。 連邦失業保険は従業員1人につき、年間給与総額のうち7,000ドル部分が課税の対象となります。税率は、現在6.0%ですが、州の失業保険税納付により5.4%の控除が与えられるため、通常は0.6%となります。ただし被用者の入れ替わりが激しい会社の場合などは、それだけ失業保険の申請が多くなるため税率が上がる可能性もあります。
税制改正法について
2017年12月22日、トランプ大統領の署名を経て税制改革法が成立しました。今回の改革は個人所得税および法人税が対象となり、法人税においては主に以下の変更点が挙げられています。
現行 | 改革法 | |
税率 | 15%〜35% | 21% |
代替ミニマム税率* | 20% | 廃止 |
現行の最高税率35%から21%へ大きく下がりますが、その反面、現行では5万ドルまでの課税所得であれば15%の税率となり、課税所得が5万ドルを下回る企業の場合は、実質的な増税となる可能性があります。新税率は2018年1月1日に始まった課税年度より適用されました。
*代替ミニマム税とは
高額納税者が税制の恩典により納税額を低く抑えることになった場合、税優遇項目を調整し、課税所得を再計算したものに対して掛かる税です。通常の課税と代替ミニマム税のどちらか高い税が選択されます。
税制改革法、税率以外の変更点(例)
- 1)現行の税法では、繰越欠損金は2年の繰戻し、20年の繰越しが可能です。改正法では繰戻しが廃止され、無期限の繰越しが可能となりました。また現行法では、課税所得の100%に対して繰越欠損金を使用できますが、改正法ではその年の課税所得の80%までしか控除する事が出来なくなりました。
- 2)国内での製造を行っている場合、現行の税法では国内製造所得控除を取ることが可能ですが、今回の改正法では廃止されました。
- 3)減価償却対象資産の購入を行った場合、現行では50%のボーナス償却や、Code Sec 179により2017年では51万ドルまで購入時一括損金算入が出来ますが(総購入額制限有り)、改正法では適用対象となる固定資産の購入にあたり、5年間は購入時に一括損金算入が認められる事となります。
- 4)現行法では、国外関連会社に支払われる利息など一定の支払利息に対して、負債と資本の比率による制限、また調整後課税所得の50%を閾値として控除に制限がありました。改正法では、基本的に全ての法人が利息制限の対象となり、純支払利息のうち調整後課税所得の30%を超える部分は損金不算入となります。
- 5)現行法では、ビジネスに関連する接待交際費は50%が控除出来ますが、改正法では接待交際にかかる食費を含む接待交際費は控除出来なくなります。
社会保険料の二重負担問題解消
2004年に「日米社会保障協定」調印、2005年10月1日に発効し、日米の年金保険料二重負担の問題と、米国での年金制度への短期加入による保険金の掛け捨て問題が解消されました。
協定発効以前は、日本から米国に赴任し、給与を受け取る日本人も米国のソーシャルセキュリティー税を支払う義務があり、日本の厚生年金保険料も支払い続けていた場合、社会保険料の二重払いとなり、赴任者の大多数は10年間の受給資格に満たずソーシャルセキュリティー税が掛け捨て扱いでした。協定発行後は、一方の国の年金および医療保険制度に加入すれば良く、例えば派遣期間が5年以内の日本からの赴任者は、日本厚生年金機構から適用証明書の交付を受けることにより、米国の年金・医療保険制度の加入が免除に。
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