アメリカ ハワイ州での遺産相続について

目次

米国に住んでいる人や米国内に不動産や銀行口座など財産を持っている人が亡くなるとアメリカでの「相続」が発生します。

日本とアメリカの遺言書の違い

日本で相続対策といえば「遺言書」が一般的です。亡くなった時に自分の財産を「誰に・何を・どれだけ託すか」遺産分割を明記した書類です。米国にも遺言書(Will)があります。日本と同様、遺産分割を明記した書類ですが、米国の場合は遺言書があってもなくても、所有財産の総額が州法に定められた一定額を超える場合は「プロベート」という裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続きが必要となります。遺言書に「不動産は長男に託す」や「金融資産は長女に託す」と明記されていてもプロベートは必要となります。裁判所の手続きを経ないと実際の相続(名義変更や売却)ができません。

遺言書があれば、遺言書で指定された相続人が相続します。遺言書がなければ州法に基づく法定相続人が相続します。ハワイ州の法的相続人はHawaii Revised Statutes Section 560:2- 101-103 に記載されています。詳しくは条文を参照ください。何にせよ、プロベートを経ないと相続はできません。

プロベートによる遺産分割・相続手続きは日本の相続手続きとは大きく異なります。

相続に期間を要し、お金もかかるプロベート

プロベートの規定は州によって異なりますが、ハワイ州の場合、亡くなった方の所有財産の総額が100,000ドル以上ある場合にプロベートが必要となります。亡くなった方または相続人が米国市民権を有していたか、グリーンカード保持者であったか、米国の居住者であったか、など移民法上のステータスはプロベートと一切関係ありません。米国内にある財産がプロベートの対象となります。
例外として生命保険や401KやIRAなど死亡時の受取人(Beneficiary) を予め指定してる財産はプロベートの対象になりません。プロベートの手続きが始まると、完了するまでスムーズに行われても数カ月から数年かかります。この間、遺産は凍結し、不動産にかかる管理費や固定資産税は支払わなくてはならず、出費がかさむケースも珍しくありません。米国ではプロベートを避けるために、「リビングトラスト」が用いられることが一般的です。

リビングトラストとは

「トラスト合意書」という書類を作成し、亡くなった後に残った自分の財産を「誰に・何を・どれだけ・ どのように託すか」トラスト合意書に明記しておきます。そして相続の対象となる財産を予めリビングトラストの名義にしておきます。リビングトラストは遺言書と同じ働きをしますが、遺言書と異なる点は遺言書は「個人の財産」をどうするか明記する書類である一方、リビングトラストは「法人の財産」をどうするか明記する書類です。つまり、お亡くなりになった時に「個人で所有している資産がない・相続の対象となる財 産はない」とみなされるため、プロベートを回避することができます。またご自身で資産管理ができる間は、リビングトラスト名義に移した個人の財産であっても、トラストが存在しないかのように、引き続きご自身の所有財産として扱うことができます。

プロベートの必要がないため、スムーズに財産分与が進められるのが利点です。リビングトラストは死後の財産分与に役立つだけではなく、認知症などの理由でご自身で資産管理ができなくなった時にも役立ちます。

リビングトラストの準備にも時間や費用は掛かりますが、前倒しで進めて置けるため、実際に相続が発生した後に着手するよりは、遺産相続が楽になります。

Transfer On Death Deed

プロベートを回避するもう一つの手段として、 ハワイ州では「Transfer On Death Deed」が利用できます。不動産の「死亡時の受取人」を予め指定しておく書類です。
Transfer On Death Deedは死亡時の受取人を指定するだけで「代わりの受取人」を指定することはできず「Aが相続しなかったらBに」、「売却してAとBに」、「Aが未成年だったらBに」というような条件を付けることもできません。

所有者の死亡時にプロベートを避けることができても、所有者が病気などで資産管理をすることができなくなった時や、不動産の売却手続きを行うことができなくなった時には問題が発生します。Transfer On Death Deedを利用する場合はセットで委任状を用意することが好ましいでしょう。

リビングトラストは米国内にある全ての財産に適用される一方、Transfer On Death Deed は該当する不動産だけが対象となります。裁判所の関与なく該当する不動産の名義変更(相続)が可能であっても、その他の財産がプロベートの対象となる可能性もありますので要注意です。


※本文は情報提供を目的とするに過ぎず、特定の事実や状況に関する法的意見ではありません。 個々の状況においては専門家にご相談ください。

【取材協力】

弁護士 佐野郁子 弁護士法人 佐野&アソシエーツ
Sano & Associates, P.C.
2173 Salk Avenue, Suite 250,
Carlsbad, CA 92008 Tel: (800) 590-0586 Fax: (800) 590-1815

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