ハワイ不動産、相続トラブルを回避するハワイ州の不動産所有形態とは?相続ルールまとめ 佐野郁子先生にインタビュー

更新日 2020.12.28

個人やご夫婦、法人でハワイ州に不動産をお持ちの方、またこれから所有する方に知って頂きたい日本とは違うアメリカの「相続問題」。知っておいて損はない”ハワイ州特有の不動産所有形態”について、この領域のプロフェッショナル、佐野郁子弁護士に伺った。

目次

【プロフィール】
佐野郁子弁護士(佐野&アソシエーツ)

アメリカで16年の実績を持ち、カリフォルニア、ハワイ、ニューヨーク各州の弁護士ライセンスをもつ日本人弁護士。専門はエステートプラン・リビングトラスト・アメリカ(日米間)の相続・資産形成・相続対策・節税対策・財産分与など。日米間の相続にも精通。日本生まれハワイ育ちで日米の文化や法律を熟知しているため、きめ細やかな法務サービスに定評がある。明治大学法学部、チューレーン法科大学院卒業。
 

「アメリカの不動産の相続」についての基本の考え方

佐野先生:
そもそも、アメリカにある不動産の相続に関しては、その不動産が所在する州の法律に則って遺産分割の手続きが行われる、ということが最初に理解すべきポイントとなります。相続人・被相続人が日本人であり、日本の居住者である場合でも、不動産が所在する州で遺産分割の手続きが行われます。

例えば日本で法的に有効な「遺言書」を準備してあり、その中に「ハワイのコンドミニアムは〇〇に相続する」と書いてあったとしても、その内容がそのまま適用されるわけではないのです。

アメリカ国内にある資産は、原則として「プロベート」という裁判所の監視下で行われる遺産分割手続きを経て相続が行われます。

不動産の場合は、当該不動産が所在する州の裁判所でプロベートが行われますので、複数の州に不動産を所有している場合は、それぞれの州でプロベートが必要となります。

アメリカにも遺言書(Will)はあります。日本と同様、遺産分割を明記した書類ですが、アメリカの場合は遺言書の有無は関係なく、相続人間で争いごとがない場合でも、所有財産の総額が州法に定められた一定額を超える場合、裁判所で行われるプロベートが必要となります。ハワイ州では$100,000以上の資産(不動産以外の資産も含まれる総額)がある場合、プロベートとなります。

時間もお金もかかる相続手続き「プロベート」

佐野先生:
この「プロベート」ですが、時間もお金もかかります。ハワイ州では、相続人間で争い事がなく、債権の主張もない場合には、Informal Probate という簡易手続きを利用することができます。それでも手続き開始から完了するまでに、スムーズにいっても12ヶ月前後、簡易手続きが該当されない場合は18カ月〜数年掛かるケースもあります。その間、不動産の管理費や固定資産税の支払いなどで遺産が目減りすることもあります。相続人が日本にいる場合は、先に相続税を納めなければならないケースもあります。さらにプロセスのなかでプライバシー情報の開示をしなければならず、負担の多い手続きといえるでしょう。

この「プロベート」は事前の準備で避けられます。そこで重要になってくるのが、ハワイ不動産の所有形態です。
すでにハワイ不動産を所有されている方にも改めてご検討頂きたいですが、これからハワイ不動産の購入を考えられている方には、できれば購入前に、資産管理が出来なくなった時や、相続など先を見越した所有形態を選び、厄介な手続きを回避してほしいと思います。

ハワイ不動産の所有形態は4つある

ハワイ州における不動産の所有形態は原則として以下の四つとなります。その他、個人所有の不動産は所有者のLiving Trust(リビングトラスト)名義で所有することもできます。

①Tenancy in Severalty またはSole Ownership(単独所有)

②Tenancy in Common(共有所有権)

③Joint Tenancy with Rights of Survivorship(合有所有権 生存者取得権付)

④Tenancy by Entireties(夫婦での連帯所有権)

​それぞれの所有形態による相続のプロセスの違いを見ていきましょう。

①Tenancy in Severalty またはSole Ownership(単独所有)


これは個人単独もしくは法人名義​​でハワイ不動産を所有する形態です。

個人で不動産を単独所有されている方が他界された場合、遺言書で定められた受遺者、またはハワイ州で定められた法定相続人がプロベートを経て不動産を相続します。いずれにせよ、個人単独名義でハワイ不動産を所有している場合は、プロベートは避けられません。また、所有者の存命中に事故や病気などで資産管理ができなくなった時には売却ができない等のトラブルになることもあります。法人が所有している不動産はプロベートの対象になりませんが、米国法人であればその法人の所有権がプロベートの対象となります。
 

②Tenancy in Common(共有所有権)


二人以上の個人もしくは法人が不動産を所有する形態で、各自が個別に権利を有します。所有割合は均等でなくてもよいのが特徴です。
こちらも①単独所有と同様に、所有者が他界された場合、その方の持分は遺言書で定められた受遺者、またはハワイ州で定められた法定相続人がプロベートを経て相続します。共同所有者の存命中に、一人が事故や病気などで資産管理ができなくなった時には単独所有と同様に売却ができない等のトラブルになることもあります。法人が所有している不動産はプロベートの対象になりませんが、米国法人であればその法人の所有権がプロベートの対象となります。
 

③Joint Tenancy with Rights of Survivorship(合有所有権 生存者取得権付)


こちらも②共有所有権と同じく二人以上の個人が不動産を共同所有する場合の所有形態です。法人には該当されず、所有の割合は均等であることが特徴です。
共同所有者のうちの一人が亡くなった場合、その方の所有分は残りの所有者が同じ割合で引き継ぎます。受遺者の指定は出来ません。共同所有者がいる場合はプロベートの必要はありませんが、最後の所有者が単独所有で亡くなった時点で、プロベートが必要となります。上記の所有形態と同様に、所有者の存命中に事故や病気等で資産管理が出来なくなった時にトラブルになりかねません。
 

④Tenancy by Entireties(夫婦での連帯所有権)


こちらは婚姻している夫婦のみが利用できる所有形態です。相続手続きや存命中の不動産管理は上記③合有所有権(生存者取得権付)と同じで、夫婦のどちらかが亡くなった場合、残された配偶者に不動産の所有権が引き継がれ、受遺者の指定は出来ません。残された配偶者が単独所有で亡くなった時にはプロベートが必要です。

そしてこの所有形態以外に、リビングトラスト名義で所有することも可能です。詳しくは次項で説明致します。
 

プロベートを回避する方法

トラスト名義で所有


個人でも夫婦でも、リビングトラスト名義で不動産を所有する場合は、プロベートを回避することが可能です。


まず、アメリカに財産を所有するご本人が、遺言書の代わりに「トラスト合意書」という書類を作成します。トラスト合意書を作成し、アメリカ国内の所有財産および不動産を個人名義から、ご自身のトラスト名義に変更します。そしてトラスト合意書には、ご自身の他界後にトラスト名義で残った財産について、「誰に何を託すか」を予め明記しておく書類です。つまりトラスト合意書は遺言書の役割を果たすのです。

アメリカには大きく分けて二種類のトラストがあります。そのうちの一つがプロベート回避目的で用いられる、通称「リビングトラスト」と呼ばれる「Revocable Inter Vivos Trust」です。リビングトラストの最大の特徴は、ご自身の存命中は「法人が存在しない」とみなされることです。ご自身が他界されて初めて法人格を持つ特別なトラストです。その為、トラスト名義に変更した不動産は、ご自身の存命中は個人で所有しているとみなされます。

ご自身が他界した時にリビングトラストは法人格を持ち、トラスト名義で残った財産は「個人の遺産」 ではなく「法人の財産」とみなされる為、プロベートの対象になりません。裁判所の関与なくスムーズに相続手続きを行い、時間と費用を大幅に節約できることになります。

トラスト合意書には「引継ぎのトラスティ」も指定しておきます。ご自身が他界した時、引継ぎのトラスティ がトラスト合意書の指示に従い遺産分割を実行します。つまり「引継ぎのトラスティ」は、遺言執行人の役割を果たします。引継ぎのトラスティがプロベートや裁判所の関与なく、トラスト合意書の指示に従い、不動産の売却や名義変更を行うことができます。

なお、ご自身の存命中でも病気などで財産管理をすることができなくなった時には「引継ぎのトラスティ」がご自身に代わり、トラスト名義の不動産を管理し売却することもできます。

リビングトラストにはハワイ不動産に限らず、アメリカ国内全ての資産を入れることが可能です。プロベートの対象になるアメリカの不動産を始め、金融資産もリビングトラスト名義にしておくと安心です。

何かあってからでは遅いため、できれば可能な限り、早めに「リビングトラスト」を設立しておくと良いでしょう。

「Transfer On Death Deed(TODD)」の活用

​​プロベートを回避するもう一つの手段として、 ハワイ州では「Transfer On Death Deed(TODD)」という方法もあります。これは不動産の「死亡時の受取人」を予め登記しておく書類です。不動産の所有者が他界された時、TODDが登記されていれば、プロベートなく指定された受遺者がその不動産を相続することができます。法人名義やリビングトラスト名義には適用されません。

ただし、TODDの対象となるのは「該当不動産のみ」ということです。複数の物件を所有している場合は、各不動産にTODDの登記が必要です。また、TODDが認められていない州もあります。一方で、リビングトラストはアメリカ国内全ての財産に適用されるという点が、大きな違いです。

なおTODDのデメリットとしては、相続条件を付けることや、指定した人が相続できなかった場合の代替案を指定することは出来ないことや、所有者が病気になる等存命中に資産管理が出来なくなった時、売却が出来ないことです。
 
このように日本とは大きく異なるハワイ不動産の相続プロセス。厄介なプロベートの回避、また、大切なハワイ不動産を希望する形で残せるように、早めの準備をお勧め致します。


 

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