ハワイ不動産を所有している日本居住者が税制改正に伴い気をつけるべきポイント 佐野郁子弁護士にインタビュー

更新日 2021.02.08

今回は、アメリカ・ハワイ州と日本の相続関連に強い弁護士法人佐野&アソシエーツの弁護士 佐野郁子先生に「税制改正に伴い、米国に不動産を所有している日本居住の日本人の方が気をつけるべき相続時のポイント」についてお伺いした。

目次

【プロフィール】
佐野郁子弁護士(佐野&アソシエーツ)

アメリカで17年の実績を持ち、カリフォルニア、ハワイ、ニューヨーク各州の弁護士ライセンスをもつ日本人弁護士。専門はエステートプラン・リビングトラスト・アメリカ(日米間)の相続・資産形成・相続対策・節税対策・財産分与など。日米間の相続にも精通。日本生まれハワイ育ちで日米の文化や法律を熟知しているため、きめ細やかな法務サービスに定評がある。明治大学法学部、チューレーン法科大学院卒業。
 

2021年の税制改革
=海外の中古物件を利用した節税の封じ込め

日本の2021年度税制改正により、海外不動産を利用した節税スキームは、個人所有の不動産に対して所得との損益通算ができなくなるため使えなくなります。

アメリカの不動産は土地よりも建物の価値が高く、日本は土地の価値の方が高いため比率が逆転しています。その原理を利用し、法定耐用年数を超える木造米国不動産の加速度償却と損益通算を利用した節税スキームを利用する人が多かったわけです。
 

しかし先述の通り、2021年からはこの手段が通用しなくなります。個人で所有している米国不動産に対し『減価償却費は生じなかった』とみなされるため、所得との損益通算ができなくなってしまいます。

ただし、法人所有の米国不動産には影響はありません。従来通りの加速度償却と損益通算が適用されます。

 

米国不動産所有の名義は法人名義が有利か? 

今回の税制改正に伴い、個人所有していた不動産を法人名義に変更しようとする方が急増しました。しかし、必ずしも法人名義が良いとは限りません。名義変更にまつわる経費や登記上のルールなどが関わってくるからです。不動産の所有目的により、法人名義か個人名義のどちらにすべきか、ケースバイケースでの判断が必要です。

法人名義にする場合、譲渡にまつわる費用やプロセスの問題が発生します。詳しく説明していきましょう。

不動産がある州で譲渡税が発生する

すでに個人名義で所有している米国不動産を日本法人名義に変更する際、不動産がある州の譲渡税(Transfer tax)が課税されます。さらに不動産鑑定士による譲渡価額の算定も必要となるため、その費用も発生します。
 

譲渡される側の日本法人設立が必要

日本法人への譲渡になるため、日本側に法人があることが前提となります。もし日本法人がない場合、その法人設立や譲渡のための経費、税金等の費用が発生します。
 

日本法人を外国法人として登録

日本法人名義で米国不動産を所有する場合、不動産が所在する州にもその日本法人を「外国法人」として登録することが必要となります。もし米国不動産を複数の州に渡って所有している場合は、その州の分だけ外国法人登録が必要となります。

 



そもそも加速度償却が目的で不動産を購入された場合、木造建築を5年で償却し、5年が過ぎたら売却予定の方も多かったことでしょう。
上記の通り、個人から法人への譲渡には、複雑な手続きと費用が発生することになります。短期で売却するつもりで購入した米国不動産の場合、そこまでの労力とコストをかける価値があるかどうかを検討されることをお勧めします。

「米国不動産」を売却する際の留意点
​​​ 相続を見据えた所有形態

個人所有の場合、5年以上所有していた不動産であれば売却時の税率は20%となっており、この税率は法人よりも低くなっています。

さらに、税制改正によって個人所有の米国不動産の減価償却は生じなかった、とみなされるため、売却時に課税される譲渡益も法人所有に比べて少ないのです。


そのため、キャピタルゲインを目的とした米国不動産投資の場合は、個人名義で所有するほうが全体的に見るとメリットが多いと言えます。

ただし個人所有の場合、米国では資産管理ができなくなったときや、相続が発生した際「プロベート」と呼ばれる裁判所の監視下で行われる遺産分割手続きをしなければならないため、それを避けるためにリビングトラスト、委任状とTODDなどを併せて活用することをお勧めします。


ハワイの相続について、詳しくはこちらの記事より>>


キャピタルゲインが目的ではなく、ハワイの不動産を子孫まで代々受け継ぎたい場合は、日本法人で米国不動産を所有し、株式を徐々に譲渡していくことにより節税を図ることも可能です。

これは株式の相続になるため、相続税対策になり得るからです。さらにこの場合、先述した米国のプロベートは該当しません。

もし米国法人名義で所有する場合は、米国法人自体がプロベートの対象になるので十分な注意が必要です。


ただしそれぞれのケースやご事情で条件は異なってきますので、詳細は専門家にご相談ください。
 

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