米国不動産を個人所有、または共同所有する方が亡くなった場合、その不動産の名義変更(相続)を行うには「プロベート」という裁判所の監視下で行われる遺産分割・相続手続きが必要となる。その手続きは、完了するまでに数年におよぶという。その為、相続対策において、「プロベート回避策」はとても重要な要素となっている。
ここでは、エステートプラン、リビングトラスト、資産形成、日米間の相続対策などを専門とし、アメリカで17年の実績をもつ佐野郁子弁護士に「実際にあった相続トラブル事例と回避策」をシリーズとし、複数回にわたり解説してもらう。今回はその第3弾。
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TODDを利用するも相続のトラブルに発展した5大事例
*豆知識
プロベートを回避する手段として、 ハワイ州では「Transfer On Death Deed(TODD)」という方法がある。これは不動産の「死亡時の受取人」を予め登記しておく書類。不動産の所有者が他界時、TODDが登記されていれば、プロベートなく指定された受遺者がその不動産を相続することができる。法人名義やリビングトラスト名義には適用されない。 ただし、TODDの対象となるのは「該当不動産のみ」。
事例1(TODDは所有者が亡くなる前の登記がとても重要)
父が高齢で病気になり、相続を気にして、亡くなる間際に急いでTODDを作成。娘を不動産の受取人と指定したが、登記が完了する前に父は他界。結果、娘はプロベートを経て相続をする結果に。
◎佐野弁護士からのワンポイントアドバイス◎
TODDは所有者が亡くなる前に、登記が完了していないと有効ではありません。きちんと登記がされていても、指定された相続人が先に亡くなった場合や、相続放棄をした場合は、死亡時の受取人が指定されていなかった、つまりTODDが存在しなかったとみなされ、プロベートの手続きをすることになります。
ハワイ州には、Abstract systemと呼ばれ登記所 (Bureau of Conveyances)に登記される物件 、Torrens systemと呼ばれ土地裁判 所 (Land Court) に登記する物件、Dual systemと呼ばれ両方に登記 する物件、と3種類があります。
事例2(遺言書よりもTODDが優先される)
父はTODDで母をハワイ不動産の受取人として指定し登記。一方、父の遺言書ではハワイ不動産を息子に託す、と明記されていた。父の他界後、母と息子は二次相続を考慮して遺言書を優先させ、ハワイ不動産を直接息子に相続させようとしたが、TODDが優先され、ハワイ不動産は母が相続する結果となった。
◎佐野弁護士からのワンポイントアドバイス◎
遺言書で「その不動産を誰々に託す」と明記されていても、TODDで指定された受取人が優先され、相続することになります。
事例3(日本居住者は遺留分にも要注意)
日本居住者である母はTODDで長男をハワイ不動産の受取人と指定し登記していた。さらに母は遺言書で全ての財産を長男に託した。母が他界し、長男がハワイ不動産を含め全てを相続。その後法定相続人である次男が遺留分侵害額を請求。
◎佐野弁護士からのワンポイントアドバイス◎
日本では民法上、法定相続人には最低限相続できる権利(遺留分)
事例4(不動産所有者の存命中のTODD利用には委任状の用意を)
父は日本で不動産管理会社を経営、株主。父が個人で購入したハワイ不動産は、TODDで娘を受取人と指定し、登記されていた。父の認知症が進み、資産管理ができなくなったため、節税対策を兼ねて、父の存命中に、ハワイ不動産を所有する不動産管理会社に譲渡すること試みたが、認知症のため、譲渡手続きに関わることができず、存命中に不動産を譲渡することができなかった。
◎佐野弁護士からのワンポイントアドバイス◎
TODDが登記されていれば、所有者の死亡時にはプロベートの必要なくその不動産を相続することができます。しかし、病気などの理由で所有者の存命中に、資産管理や不動産の売却手続きができなくなった場合には問題となります。TODDを利用するには委任状をセットで用意することが望ましいでしょう。
事例5(TODDではなくトラストなら回避できた)
父はTODDで長男を不動産の受取人と指定し登記していたが、他のコンドミニアムと買換えのため売却手続きを開始。売却手続き最中に父が他界。結果、プロベートを経て売買手続きが続行され、法定相続人である長男と長女が売却益を相続をすることに。
◎佐野弁護士からのワンポイントアドバイス◎
売買契約の当事者が他界しても契約は有効で続行されます。当事者
ハワイで不動産を所有している方や、これから購入を検討される方は、どのような所有形態が最適であるか、ご状況に応じた、アメリカの相続に詳しい専門家にご相談されることをおすすめします。
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