「ロックダウン」の定義は各国や州でも違いがあるが、ハワイの場合はこうだ。
1.州外から到着する訪問者、また州外から帰ってくるハワイ在住者もすべて、到着後14日の自己隔離を求めるという事実上のハワイ州の封鎖。(3月26日より)
2.州内の住民の外出禁止令。(オアフは3月23日より)不必要な外出を止め、重要業務リストで認められたの勤務者以外の通勤を禁じ、その他の人は自宅からリモートワークに切り替えること。ただし、通院、食料品の買い出しでの外出、ウォーキング、ハイキング、サーフィンなどの運動も、ソーシャルディスタンスを守れば認められている。
このロックダウン、いつの日も人を温かく受け入れてきたハワイが来訪者を自ら拒むという、過去にない悲痛な決断であった。当然、犠牲になるのは基幹産業である観光業。そして、ロックダウンに至るまで、ほぼ1週間もなかった。まさに問答無用で、あっという間に生活も仕事も経済も何もかも変わった。他国での事例を先に見聞きしていたが、実際に我が身に起きてみると、「このハワイが」という感情も重なり、相当の衝撃だった。
東京首都圏のロックダウンの可能性も取りざたされている今、いつ誰の身に起きるかもしれないこととして共有したい。
ハワイのロックダウンまで、時系列のファクトまとめ
2月上旬。まだ新型コロナウィルスは対岸の火事。中国からの水際対策が中心。まだ世界も「中国のウィルス」と考えていたころ。
【2020年1月23日】
中国、武漢でのコロナウィルスの拡大により、武漢をロックダウン。
【2020年2月2日】
アメリカ大統領令が発令され、米国入国前14日以内に中国での滞在歴がある外国人のアメリカ入国が禁止となった。ダニエル・K・イノウエ空港のイミグレーションでも、「米国入国前14日以内に中国に滞在したかどうか」が質問されるように。 中国からアメリカへの到着便を11の主要空港に限定。その中にはダニエル・K・イノウエ空港(ホノルル空港)も含まれており、検疫の体制が強化
【2月3日】
中国からの唯一の直行便である、東方航空の上海ーホノルル便が休航。
【2月5日】
横浜でダイヤモンドプリンセス号の隔離スタート。世界的に批判される。
2月下旬。アメリカの水際対策が、中国だけでなく、日本・韓国などアジア圏に対象拡大。日本も危険なエリアと見られ始める。
【2月24日】
アメリカ国務省がアメリカ人の日本への渡航警戒レベルを、これまでの四段階の一番下から、二番目の「注意を強化」に引き上げた。「日本国内で経路不明の感染が広がっている」という理由でとのこと。
【3月3日】
ハワイ州が日本や環太平洋圏から数千人の来訪者がある「ホノルルフェスティバル」の中止を発表。このころはまだ、コロナウィルスは、日本からアメリカに持ち込まれるものという認識。
3月上旬。ヨーロッパの感染拡大。アメリカでの感染拡大の予兆。ついに3月6日ハワイでの初の感染者確認される。
【3月6日】
ハワイで初の感染者が確認された。旅行先での感染者。そのほかの大型イベントのキャンセル発表も続々と始まる。
【3月12日】
WHO、新型コロナウィルスをパンデミックと認定。トランプ大統領が、ヨーロッパからの入国禁止命令を発表。この頃アメリカ国内での感染者が1000人を越える。トイレットペーパーやマスクなどの買い占めがハワイでも起き始める。
3月中旬。事態は日々怒涛の急展開。たった数日でハワイ州全体を封鎖、ロックダウンまで。
【3月16日】
ハワイで7名の感染者を確認。アラモアナセンターが時短営業を発表。アメリカ本土に本社のある大手小売り業やデパートなどの一時閉店が多くなる。
【3月17日】
ハワイ州イゲ知事が「30日間、ハワイへの渡航を自粛してほしい」という異例の声明を発表。 この日、アメリカ全土での感染者が5000人を突破。アメリカでの急激な拡大が明らかになる。
【3月18日】
オアフ島で、3月20日~4月3日までの間、レストラン内での飲食サービス提供を禁止する命令が出される。持ち帰りやオンラインデリバリー、ドライブスルーのみの営業可とする命令。また官民ともに、今後15日間テレワーク勤務を推奨。ハワイの感染者は16人。
【3月21日】
ハワイ州知事より、3月26日(木)より、ハワイへの州外からの到着者(旅行者、また州外からハワイに戻ってきた住民含む)に対して14日間の自己隔離を義務付けるという発表。「30日ハワイへの渡航自粛を要請」というレベルから、決定的に来訪者を減らす事実上の封鎖へ。「観光業」という経済の柱を犠牲にしてでも感染拡大を止めるという選択に大きな衝撃が走る。
【3月22 日】
ホノルル市のカーク・コードウェル市長は、3月23日の16時より4月30日まで、オアフ島の外出禁止令を発表(Stay-at-home, work-at-home order)。オアフ島内の重要業務以外の人は,在宅勤務を行う命令、また食料調達、通院、運動以外、基本的に外出禁止。レストランは引き続き、持ち帰り・デリバリーのみ。多くの小売り店や、スパ、ツアー催行会社など観光業も重要業務リストから外れ、休業となった。
日曜に発表され、月曜から施行という時間的余裕のなさだった。
【3月25日】
イゲ知事が同じような外出禁止令を、ハワイ州全島に発令。
【3月26日】
ハワイへの州外からの到着者・訪問者の14日間自己隔離の実施がスタート。初日の到着者が94%減。全島がロックダウンとなった。
【3月27日】アメリカ全土でのコロナ感染者数が10万人を超え、中国を上回った。ハワイでの感染者は120名。
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このように、3月半ばのまだ感染者が数人というところから、3月23日のオアフ島ロックダウンまで住民である我々もついていけないほどのスピードで、一気に展開した。市や州が3時頃に行うプレスカンファレンスで、毎日のように州の命運、また約100万人のハワイ州住民の生活を揺るがすような決定が発表され、観光業に携わる多くの人が大きな痛みを伴うロックダウンへの移行を強いられた。2月に2.7%だった低失業率は、一気に12%に跳ね上がった。
そこには、日本の行政のように「自粛の解釈」をしているような時間はなく、まさに「問答無用」の移行であったといえる。
しかし、ハワイの人々はおおむねポジティブに、助け合いのアロハスピリッツでこの困難を乗り越えようとしており、SNSを中心に、サポートをしあう動きは活発である。先が見えないながらも、インフラの脆弱な、狭い島だからこそ感染したらやばい、という共通理解も根底にあるはずだ。
移り行く「ホットスポット」と恐れる相手
ところで、ハワイ州の基幹産業である観光業は年間約1000万人の来訪者によって成り立っている。そのうち約500万人がアメリカ本土からの国内旅行者。そして約150万人が日本からの旅行者。残りがカナダ、オーストラリア、韓国、中国などからとなる。
ハワイ州のロックダウン決定は、3月上旬から急速に医療崩壊を見せ始めたイタリア・スペインの様子、3月半ばからアメリカの大都市での拡大が見えたことがきっかけになったように思う。
特に3月19日からのカリフォルニア州のロックダウン、また3月22日のニューヨーク州のロックダウン後、「ハワイ州への渡航自粛をお願いします」レベルでは、ハワイを守れないという判断に一気に傾いた印象だ。
最初は、中国から、アジアの隣国に。次に、ヨーロッパへ、そして新型コロナウイルスの感染ホットスポットは、徐々に移り、今はアメリカとなっている。
各国や州が取る策の足並みがそろい、なるべく同じようなタイミングで感染者数の減少へ曲線を描くことができれば、相互に開放し合う日は早くなる。
アメリカの感染拡大の食い止めはもちろん、日本で、他国よりも遅れてパンデミックが起こらないことを祈るばかりだ。
実録 ハワイのロックダウンVol.2では、ロックダウン後の経済、ロックダウンしても動いている「エッセンシャルワーク」とはなんなのか?をお伝えする。
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